「ジャイロモノレール」は上質なオタク指南書だった

 森博嗣著の「ジャイロモノレール」を読んだ。

ジャイロモノレールとは、ジャイロを使って自律的にバランスを取りながら、一本のレール上を走行することができるモノレールのことである。自身でバランスを取ってくれるため、現在実際に運用されているモノレールのように車両が挟み込む頑丈な太いレールも必要ないし、上から車両を吊るすための大掛かりなレールも必要ない。普通の列車が走る線路の片側のレール上でも走ることができる。簡単なレールで良いため、工事が圧倒的に楽になるらしい。レールを引ける場所の自由度も格段に高いだろう。

このジャイロモノレールは20世紀の初めに研究され、実際に動く模型も開発された。しかし、戦争が始まったため、実用には至らず、その技術も失われてしまったらしい。文献や模型は残っているが、単なる空想の類だろうということで、顧みられることがなかった。その技術を知った著者が、調べていくうちに、理論的には実現可能なのではないかという結論に達する。そして研究を開始し、実験と工作を繰り返し、ついにはジャイロモノレールを再現させた。

本書は、ジャイロモノレールについて、一般の方にもわかる範囲で説明を試みたものである。

と、まえがきにある通り、本書の大部分は、ジャイロモノレールを実現させるための理論の説明と、実験と試作機の制作過程に割かれている。しかし、著者のメッセージは、第5章 個人研究の楽しさ に集約されていると私は感じた。日本では、趣味とはあくまで娯楽や遊びのことであって、仕事の息抜き程度に考えられている。しかし、イギリスにおける hobby は、仕事よりも重視される存在で、人間の品位を形成する要素の一つだという。大人の嗜みとしての、文化的な探求こそが趣味である。定年退職後にやりたいことがみつからないという人がいるのは、このような趣味(個人研究)を行う素養を持たずにいたからだと著者は訴える。

個人の楽しみとして、仕事とは関係のない分野を探求している人をなんと呼ぶか。私の中でそれを表す言葉は「オタク」だ。オタクという言葉も、年代によって人によって解釈が異なるため、扱いづらい言葉だが、最近ではポジティブな意味として使われることが多くなってきていると感じている。オタクと言うと眉をひそめる人もいる。それは、自分にはよくわからないものを強烈に愛好していることに対する、理解できないという反応であり、そういう反応をする人こそ、仕事以外に趣味を持たず、定年後にやりたいことがなくなってしまう人なのではないだろうか。ジャイロモノレールなどという、聞いたこともない乗り物について、自身の素養を総動員して技術を調査し、検証し、実験と試作を繰り返し、実現してしまう人物は、オタク以外の何者でもない。この本は、これからの時代を生きる人達に向けた、オタク活動の指南書と言える。

 

ジャイロモノレール (幻冬舎新書)

ジャイロモノレール (幻冬舎新書)